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どのような形でも共に​

「久しぶりだね、隊長。今日は君に紹介したい仔がいるんだ」
 オロルンはイクトミ竜の幼体に意識を移したスラーインを伴い、オシカ・ナタにある「隊長」のもとへとやってきた。
「スーラという。君に魂が似ている、賢い仔だ」
(自分の体を客観的にみるとこのような形なのだな)
 今も眠る「隊長」の目の前にスラーインを抱き上げる。オロルンは知る由もないが、スラーインは自分の体を紹介されるという何とも奇妙な心地となった。見せたことに満足したのか、そのままオロルンはスラーインを抱えると「隊長」の足もとにもたれかかるように座り込んだ。
 
「ナタは今、新たな道を歩みだそうとしている。帰火聖夜の巡礼はその在り方を変え、互いを切磋琢磨する競技となった。それに、外の国を見に行くナタ人も増えたんだ。どれも、君が与えてくれたものだ」
(……)オロルンとともにいるようになり、スラーインもナタの現状を実際に知ることができた。オロルンは時にはシュバランケを捕獲するために罠を仕掛けただとか、カクークとアハウが喧嘩をしていただとか、身振り手振り声真似など様々な話をする。
(そんなこともあったのか)とくに初代炎神を罠にかけようとするとは、と少々心配になったスラーインである。
 
 しばらくそんな風に話すオロルンの声に耳を傾けていたところ、不意にスラーインを抱える腕に力が入った。
 クル?(オロルン?)
「……でも、君だけがいない」
 ぽつりとこぼされたその言葉はすぐにオシカ・ナタに吹く風で飛ばされ「隊長」のもとへは届かなかっただろう。だが、オロルンに抱え込まれているスラーインにははっきりと聞こえていた。
(…………)あまりにも寂しそうな声音に、思わずオロルンを見上げる。すると、ぽた、と雫が振ってきた。
 異なる色の双眼から大きな粒の涙がこぼれていた。
 クル……(オロルン)
 「すまない、やっぱりまだ僕はうまく昇華出来ていないみたいだ」
 オロルンは深くフードをかぶって表情を隠してしまう。
「スーラと一緒なら、大丈夫かと思ったんだが。……余計に気づいてしまった。いや、目を背けていたことに向き合わなければならなくなっただけだった」
(……どういうことだ)
「隊長の魂に似ているスーラを、僕は隊長の代わりにしているだけだ、って」
(…………)
「そんなの、隊長にも、スーラにも失礼なのに……」
(……、すまない、オロルン)

 スラーインはイクトミ仔竜の短い手を伸ばしてオロルンの涙をぬぐおうとした。泣かないでほしい。悲しまないでほしい。なぜならそれは本来不要な葛藤なのだ。だが、それが伝わることはない。なぜなら、スラーインがスーラになる条件こそ、その事実を秘匿するものである。
 スラーインは自分のわがままがまた一つオロルンを苦しめている事実に申し訳なくなった。だがその苦しみを味わわせることになっても、こうしてそばにいたいと願ってしまうことに、さらに罪深さを感じてしまう。
 きゅい……(それでいいのだ、オロルン。どうか、気に病まないでくれ)
「ごめん、スーラ。気を遣わせて……」
(問題ない)
「……不思議だ。君は怒ってもいいのに、僕を許してくれるのか」
(もちろんだ)
「……隊長も、許してくれるかな」
(あたりまえだ)力強く頷いたところで、ふわっと風がオロルンを撫でていった。
「優しい風だ……、まるで頭を撫でてくれているかのようなぬくもりすら感じる……」
(これは……)オロルンは分からないようだが、スラーインはその風に含まれる気配を感じ取っていた。
「それでいいと、許してくれているようだ」
(あぁ)
 おそらくこの様子を見ていたのだろう。夜神の意志が伴った風にスラーインは感謝した。
「ありがとう、ここに来てよかった」
 オロルンはゆっくりと立ち上がり、「隊長」へと向き直る。
「じゃぁね、隊長。スーラと一緒に見てきたものを、また君に伝えにくるよ。……君の魂がある世界に、どうか安らぎがありますよう」
(俺の魂はここにある。そしてそれこそが安らぎである。……伝わらないのがもどかしい)
「じゃぁ帰ろうか、スーラ」
(だがそれでいい。どんな形であれ、お前のそばにいられるのなら)

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