憧れと思慕と共に
イクトミ竜の幼体に意識を移したスラーインは現在、スーラとしてオロルンと共に生活をしている。というのも、オロルンはイクトミ仔竜がスラーインだとは似ているものの本人であるとは認識できないようになっているのだ。
そうだろう、そうでなければこんなことにはなっていない。
現在、オロルンから、「隊長」カピターノについてあれやこれやと聞かされているのだ。
彼が育てている野菜たちの畑を視界に入れて横並びになり、日向ぼっこをしながら。
「オカンビおじさんから聞いていたけど、隊長を初めて見た時はびっくりしたなぁ。でもそれより、なんでファデュイのお偉いさんがばあちゃんを探してるのか、ばあちゃんになんか悪いことするんじゃないかって気になったんだ」
「僕が着いてきてることに気づきながら全く気にしてなくて。そりゃ僕くらいなんとでもなるだろうけどちょっと悔しかったな」
「隊長が謎煙の主の秘術を簡単に使ってるのみてびっくりしたよ。それってもともと知ってたのか、昔アイズ様から教わったのか?どうなんだろうね」
「隊長の部隊に着いてった時そこで炎水ってお酒を一気飲みしたらすごく盛り上がったんだ。2杯目飲もうとしたら隊長にとめられちゃったけど、あの時の味を再現できないかなって作り方聞いたんだよ」
オロルンから聞かされる出来事はスラーイン自身も記憶にある。理知的でありながら突拍子もない性格でスラーインの部下たちも初めはだいぶ戸惑っていたが、しばらくすれば慣れて孫を見るような目で面倒を見ていた。天性の愛されキャラクターなのだろうと思う。
「すごくないか?!500年で衰えたと言いつつも炎神様と互角に戦う実力!」
(うん?)
「剣だけで戦うのかと思ったら繰り出される蹴りも強くてかっこいいんだ!」
(…………)
「200mの距離の敵を一掃するんだ。あの時の隊長もかっこよかったなぁ……」
話の流れが少し変わってきたのでは?思い出話をオロルン視点で聞いていたらいつの間にかいかに隊長がかっこいいかにシフトしていた。
スラーインは畏怖されることも敬愛されることも慣れてはいた。だがこうも単純に純粋に好意を向けられているのを聞くといささか気恥しさを感じる。
「炎神様には一緒じゃないのか、とか聞かれたな」
(マーヴィカが?)
「隊長が僕をかってくれてると言ってくれた。それに、隊長のことを聞くなら僕が1番適任だろうって。……まあ、やっぱり隊長に聞いても何も教えてくれなかったけどな」
少し寂しそうに言うオロルンを見上げる。
オシカ・ナタへ向かう道中に様々聞かれたとは思っていたが、なるほど、マーヴィカの差し金でもあったのか。
あの時はこれから成すべきことを思い、余計な話はしない方が良いだろうと判断した。誰に対してもそうであったがしかし、オロルンは特別であったという自覚がある。オシカ・ナタへ向かう際、そもそも同行などさせたなかっただろうに、スラーインはオロルンを呼んだ。
自身と似た性質、在り方を知り、かつて彼がなし得なかったことを、成し遂げる姿を見せたいと思った。……それと、そばにいることの心地良さを覚えてしまえば、どうか最後も見ていて欲しいと願ってしまったのだ。自己満足にも程がある。だが、更に欲深いのは今この瞬間なので手に負えない。
「僕はね、スーラ」
クル?(なんだ?)
「僕が隊長に向ける感情が何か知っている。でもそれは、彼にとって迷惑だっただろう。傍に居られたらそれで良かったから、伝えたことは無いけれど」
(…………)
「……もし伝えていたら、何か変わったんだろうか」
恐らく、何も変わらないだろう。スラーインは悲願を叶えるために同じ選択をしたはずだ。
だが、今ならその手を取れる。
「ふふ、ありがとう、スーラ」
今はまだこの小さな竜の手しか差し出せない。しかしいつかは自分自身が受け取りたい。
どんどん欲深くなる自身に、スラーインは内心苦笑を禁じえなかった。

