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これから共に

 イクトミ竜の幼体に意識を移したスラーインは、ナタで一人ぼっちの目覚めをした。誰かに見つからなければそのまま、というところ、運命的にオロルンと再会する。
 誰よりも会いたくて、会いたくてこのような事までした相手に。

 この広い世界で再び会えた幸福にスラーインは感謝した。

「まずは、イファのところに行こう」
 オロルンがスラーインをしっかりと抱き抱えると、イクトミ竜や謎煙の主が得意とするハイジャンプを行い、そのまま翼を広げて飛び続けながら花翼の集まで向かう。
 (……深夜だが、いいのか?)
 根は真面目なスラーインは非常識な時間では無いのかと心配した。だが、それを伝える術はないし、現状為すがままなので大人しくオロルンの腕に抱かれることにする。
 風が頬を撫でる。月明かりに照らされたナタの大地の穏やかさをスラーインは心地よく眺めていた。

 オロルンが花翼の集までやってくると、迷うことなくひとつの家へと向かった。入口には絵が飾られている。手当されたクク竜の仔どもと帽子をかぶった陽気な男のデフォルメされたイラストだ。
「イファ、いるだろう?」
 ノックもそこそこに家の扉を開ける。遠慮はどこに行ったという勢いだ。
 
「……まじかよきょうだい……、今何時だと……」
「急患なんだ、頼む」
「急患?」
 ベッドの上の塊がもぞもぞと動き、寝ぼけた声で文句を言っていたが、オロルンの「急患」という単語にパッと起き上がる。なるほど、医者らしい。
「この子だ」
 オロルンは起き上がった男――おそらくイファにスラーインをみせる。
「一人ぼっちのところを見つけたんだ。見たところ怪我とかはしていないが……」
「ふぅん、かなり幼いイクトミ竜だな。その割に随分落ち着いてるし、しっかりしてる」
「そうだろう?これ程ずっしりと安定した魂の竜は見たことがない」
 イファはオロルンと話をしながらもイクトミ竜の幼体であるスラーインを診察した。確かに腕のいい獣医なのだろう、手際の良さに感心する。

「うん、特に問題はなさそうだな。ちょっと栄養状態が悪くなりかけてるが、これからしっかり食事が出来ればすぐ良くなる」
「そうか、よかった……。夜遅くなのに悪かったな」
「それは最初に言ってくれ?」
 (それはそうだ)
「そいつどうする?うちで面倒見るか?」
「うーん……」
 クルル!(オロルンがいい)
 
 イファから解放されたスラーインはとてとてとオロルンの元に戻る。オロルンはそんなスラーインを再度抱き上げて頭を撫でた。スラーインは満足そうに鳴く。
「……随分懐いてるな」
「たまたま出会ったのが僕だったからかもな」
 (オロルンだからな)
「で?いつもみたいにうちで面倒みて、ある程度のところで返すか?」
 (…………)通常であればそうなのだろう。だが、そうされては困る。何故なら、オロルンと共にいるためにこのような形で戻ってきたのだから。そう思いながら、スラーインはイクトミ竜の小さな手でオロルンのマフラーをきゅ、と掴んだ。
 その様子をオロルンは見つめると、意を決したようにイファに告げる。
 
「イファ、僕、この仔を引き取りたい。一緒にいたいんだ」
 (!!)
「この仔、こんなに小さいのに親もそばにいなくて一人ぼっちだったんだ。だから、他人事とは思えなくて」
「ふうん」
「……それと、この仔の魂はまるで隊長のようで、彼と一緒にいるみたいに感じる。もちろん、違う事はわかっているけど、もっとナタを……外の世界を見てもらいたいと思ったんだ」
「……なるほどな。まぁ、いいんじゃないか?責任もって、面倒みろよ」
「!ああ!」
 パッとオロルンの顔が喜色に染まる。
「これからよろしく、相棒!」
 (ああ)
 嬉しそうにする一人の人間と1匹のイクトミ竜を眺め、イファはやれやれ、としかし微笑ましく見守っていた。
 
 「早速だが、名前をつけたいんだがいいかな」
 クルル!(好きに呼べばいい)
「うーん、何がいいかな。隊長のようだけど、隊長と呼ぶといつか彼が目覚めた時にどっちを呼ぶか混乱してしまうよな」
 (確かにな)
「カピターノ、だったな。ファデュイ執行官第一位。そして天柱騎士スラーイン。誰もが知る英雄だ。……いや、たくさん呼び方があるな隊長は……」
 (言われてみればそうだな。どれも大切な名ではある)
「有名だから、それで呼んでしまうとみんながびっくりしてしまうだろう。そうだな……」
 (……そういえば以前ミツムシの名前もこうして悩んで決めたと言っていたな)悩みすぎてつむじすら見えるオロルンを眺めている。後ろでイファは眠そうに欠伸をしていた。
「そうだ、スーラはどうだろう。呼びやすいし、何より隊長の名前の一部をもらっている。魂が似ている君なら、きっとイクトミ竜の中の隊長みたいな存在になるだろう」
 (どういう存在だそれは)と思うスラーインであったが、名案と言わんばかりにキラキラと目を輝かせるオロルンを見るとなんでもいいか。
 クルル!(お前が決めた名前であれば、なんでもいい)
「ふふ、認めてくれたのかな。ありがとう、スーラ。これからよろしくな」
 (ああ、よろしく頼む)

「……さぁて、名前も決まって喜ばしいところだが、そろそろ俺は寝ていいか?」
「ああ、すまない。ありがとう、イファ。今度キャベツを持ってこよう」
「ん」
 イファは軽く手を挙げて、オロルンとスラーインを背に布団へと潜っていった。

「じゃあ、スーラ、行こうか。これから君の帰る家にもなる、僕たちの家に」
 (ああ)

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