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​ぬくもりとともに

 イクトミ竜の幼体に意識を移したスラーインはオロルンの希望とスラーインの意志により、これからはオロルンと行動を共にする事になった。

 オロルンに抱えられ、彼の家までやってくる。そこはかつて、「隊長」がオロルンに話しかけた場所のすぐ側であった。
(……ここが、始まりの場所でもあるな)
 もう随分と前のような気がするが、ここ最近あまりにも色々あったためそう感じるのだろう。

 家の中に入れば、軽く散らかっているものはあるが一人暮らしといったらこれくらいだろう。言い換えれば、生活感が溢れていた。
「ようこそ、スーラ。ここが今日から君の家でもある。好きにくつろいでくれ」
 オロルンはスラーインをそっと床に降ろして自由にさせる。
(俺の家、か……)
 もとよりそこまで自由な時間などなく、無為に過ごすということをしてこなかったため何をしていいかわからず立ち尽くしていた。そんなスラーインを気にしつつ、オロルンは思いついたように声を上げる。

「君のベッドを整えなければな」
 確かクッションとか色々あったはず、と部屋をひっくりかえしている。ポンポン飛んでくる小物を避けながらオロルンに近づいた。
「うん、これならフカフカで気持ちよく寝れるだろう」
 そこにあったのは、たしかにふかふかのクッションに手触りの良さそうな毛布。寝たら気持ちよく寝れるだろう。だが、
「?」
 思わず、イクトミ竜の小さな手はオロルンの服を掴んでいた。
「……でも、そうだな」
 オロルンはスラーインの頭を撫でる。
「今日は僕と一緒に寝てくれないか?大丈夫だ、僕は寝相はいい」
 クル…(ああ、そうする)
 離れがたかった。
 スラーインの本体は眠っているといえるが自分の意思で眠りにつくというのは実に500年振りなのだ。多くの仲間が眠る姿を見てきており、そのようにすればいいと理解でいても出来る気がしなかった。
(……天柱騎士が聞いて呆れる)
 その不安をオロルンは感じ取ったのだろう。せっかく整えた寝床だからなどと微塵も思わず、スラーインに気を遣わせない言い回しをするところは実にオロルンらしいと言える。

「よし」
 オロルンはスラーインを抱えてベッドに横になる。
(……別に、横にいるだけで構わないのだが……)
 距離感に戸惑っていると、オロルンは意に介することなく苦しくない程度に抱きしめた。

「……心細い夜や怖い夢を見た夜、無性に寂しくなった夜は僕もこうしてばあちゃんに抱きしめて寝てもらった。すごく安心するんだ。だから、君もそうだと嬉しい」
(……ああ、そうだな。暖かくて、心地いい)
「おやすみ、スーラ」
(…おやすみ)
 抗いがたい温もりに、一定に響くオロルンの鼓動。自然とまぶたが落ちてくる。
 ああ、眠るとはこういうことかと思いながら、スラーインはそのまま身を委ねたのだった。

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